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内藤ホライゾン

元スレここだけ真夏のスレ <blockquote> とても暑い夏の日のことだった。 内藤はいつものようにブーンをしていた。 日の光に照らされ、汗すらも輝いて見えて。

「走れよ!!もっと走れよ内藤!!」

子供たちにはやし立てられ、一層速さを増して行く内藤。

とても暑い夏の日のことだった。

内藤は走った。 日本全国、北から南へと走り回った。 子供達の間でも、内藤のことは少しずつ有名になっていった。 その下卑た顔つきに、保護者は良い顔はしなかった。 それでも『一過性の流行だろう』と、誰も内藤を止める者はいなかった。

僕が内藤に出会ったのは松江の路地裏でのことだった。 松江――島根県。名だたる過疎地である。 子供の数の少ないその土地では、他の地域に比して内藤の知名度は 低かった。 内藤の顔には憔悴の色が浮かんでいた。 しかし感情の色彩は必ずしも寂しさのそれではなく もっと別な何か、絶望にも似たものがあった。

僕はミネラルウォーターを携え、内藤の元へそっと近付いた。 「内藤さん」 一瞬、肩を震わせておずおずと僕を見上げる内藤。 怯えている。そんな表情を刹那に見せ、すぐに笑った。 笑顔はしかし、とても投げやりで力なかった。 勢いよく走り回るあの勇姿と今の内藤とは、およそ符合するところがない。

沈黙が互いを支配する。 僕の知っている内藤は、決して寡黙ではない。 なぜ内藤は、かくも憔悴しているのだろうか。 沈黙を破る端緒を掴むべく、僕は内藤にミネラルを差し出した。 「水、飲みませんか?」 「…ありがとうだお( ^ω^)」

僕は懐中から煙草を取り出すと、内藤の横に腰を滑らせ、静かに火を点けた。 どこかでアブラゼミが鳴き始め、僕らの沈黙を野暮ったく埋めてくれる。 煙を吐き出しながら内藤の方を一瞥すると、内藤はケホケホと咳込んでいた。 「すいません、煙草苦手でしたか?」 「違うお、ちょっと体調が優れないんだお(;^ω^)気にしないでくれお」 そういって内藤はうつむいた。 顔を注視すると、内藤の頬がげっそりと痩せこけていることに気付いた。

「内藤さん、随分痩せましたね」 「そ、そんなことはないお(;^ω^)CHA-RAヘッチャラだお( ^ω^)」 彼は僕を笑わせようとしてくれたのだろうが、生憎ちっとも面白くなかった。 「ちゃんと食べてないんでしょう?」 「食べてるお。なんてことを言うんだお(#^ω^)」 内藤が言い終わる前に、彼の腹の虫が正直な鳴き声を上げた。

「食べてないんじゃないですか」 「……(;^ω^)」 「なんで食べないんですか?」 「……(;^ω^)」 内藤は黙っている。 この猛暑のおり、食欲が無くなるのは分かる。 しかし、何も食べないのでは体力は失われるばかりだ。 「ホントにお腹は減ってないんだお……( ^ω^)」 内藤はそう呟いた。 左手のペットボトルは、とうに空になっていた。

「……内藤さん、良かったら何か食べに行きませんか? 僕、奢りますから」 その言葉に内藤は、僅かに狼狽の色をたたえた瞳で僕の方を見た。 どうして彼はこんな単純な言葉にうろたえるのだろうか。 僕には皆目見当がつかなかった。 彼は一瞬ためらい、でもその後でゆっくり口を開いた。 「( ^ω^)じゃ、じゃあ行…」 「あっ!内藤だ!!」 突如、耳をつんざく幼い矯正。 小学生と思しき集団が、通りから現れた。

「内藤だ!!内藤だ!!」 「走れよ!!走れよ内藤!!」 「ブーン!ブーン!」 巻き起こる内藤コール。 彼を見付けた喜びに沸く小学生たち。 この時、彼らには分からなかったのだ。 内藤は既に走れる状態ではなかったことが。

眩しい太陽が容赦無く照り付ける。 何もしてなくとも、その光を浴びているだけで体力は奪われる。 内藤とてそれは例外ではない。 しかも彼は、贔屓目に見ても元気とは言えない、むしろ満身創痍である。 この状態で、この真夏の最中、走れるのか? 答えは、NOだ。 常識的に考えれば―――

「内藤さん、今日はもう」 しかし内藤は、僕の言葉を待たずに駆け出した。 「ちびっこたち、一緒に走るお!!!⊂ニニニ( ^ω^)⊃」 内藤はすぐに、見えなくなった。

一陣の風が僕の前を翔けた。 遠くで喚声が起こっている。きっと…きっと内藤、なんだろう。 とにかく、元気に走る彼の姿を見て、全ては杞憂に過ぎないのだと思い直した。 束の間の内藤との出会いを胸に秘め、僕はそこを立ち去ろうとして、踏み止どまった。

手帳が落ちている。

僕はその手帳を拾い上げた。拙い字で 『Nホライゾン』 と書かれている。 なぜ内藤を敢えてNと表記したのか、それは僕には分からない。 とにかくこれは彼の物なのだろう。 返さねば、とは思ったが、彼の姿は既にここにはない。 僕は一瞬ためらったが、もしかしたら連絡先など記してるかもしれない、 と思い手帳を開いた。

7/6 晴れ

走ったお。今日も走ったお。走るのは非常に気持ちがいいお。 明日も走るお。

7/8 くもり

今日は過ごしやすい一日だったお。 もちろん走ったお。 涼しいのはけっこうだけど、やはり太陽の下を走る方が 気持ちがいいお。

7/13 晴れ

今日走っていると 『内藤!!走れよ!!』 と声を掛けられたお。 きっと僕のワンフーだお。 非常に嬉しいお。

7/16 あめ

走りに走っているうちに、気付いたら栃木まで着いてたお。 さすがに疲れたお。 雨だし、今日は久々にや

7/21 晴れ

疲れたお。 この前は書きかけなのに 『内藤!!走れよ!!』 と、またワンフーから声を掛けられたお。 ワンフーは日に日に増えて行くお。 嬉しいけど、ちょっと疲れたお。

7/25 くもり

足が痛いお。 お腹が空いたお。 なんで僕は名古屋にいるんだお。 ひもじいお。 帰りたいお。

7/26 くもり

昨日は心が折れかけたお。 でも子供たちの期待は裏切れないお。 走るお。 みんなが待ってる限り、走るお。

7/30 ひどいあめ

いつの間にやら滋賀に着いてたお。 道々にはすごい数のワンフーがいて、休む暇すらなかったお。 いつの間に僕はこんなに有名になったんだお?

8/2

お腹が空き過ぎて倒れたお。 何か食べたいお。 随分痩せてしまったお。 でも、お金がないお。 でも、でも、僕が働くとこなんて、子供には見せられないお。 そんな姿を見せたら、きっとがっかりするお。 僕に彼らの夢を破る権利なんて、ないお。

8/5 はれ

もう、やめるお。 やめるお。 やめるお。 やめるお。

8/7 くもり

昨日、一人の女の子が来たお。 彼女は車椅子だったお。 彼女は手紙をくれたお。 『ないとうさんが走ってるのを見ると、元気がでます。 これからもがんばってね、ないとうさん』

走るお。 走るお。 走るお。 僕は、走るお。

手記はそこで終わっていた。 今日は8/10。 ここに綴られた心境は、だから、つい最近のものだ。 「内藤……」 僕は呆然とした。 あの内藤が、こんなにも重いプレッシャーと戦っていたなんて。 いや、それはこの際問題じゃない。 止めなければ。 内藤を、止めなければ。 きっと彼は、死ぬ。 そう思い、僕は何とか彼に連絡を取る手立てはないものか、と手帳を次々にめくった。 すると最後の方に、一遍の句があった。

『世の中に 絶えて桜のなかりせば 春の心も のどけからまし』

ここにおいて、僕は内藤の悲壮な決意を感じ取った。 内藤―――走らなければ、走る必要がなければ、 辛いことが身に降ることもないだろう。 しかし彼は走る、走らなければならない。 それは絶対に、変えることのできない定め。

彼は受け入れているのだ。 空気を吸って吐くことと同じように 『走る』ということを、受け入れているのだ。 その先にどんな結果が待ち受けていようとも。 きっとどんなに止めても、彼は絶対に走ることを止めない。

手帳を閉じると遠くで驟雨のように鳴いていたアブラゼミが、パタリと鳴きやんだ。

季節は秋になり、しぶとく鳴いていた蝉の声は コウロギや鈴虫の静かな音色にその役目を奪われつつあった。 内藤はと言えば…消息は僕には分からない。 噂も、いつの間にか立ち消えていた。 寂しいが、それも仕方のないことなのだろう。 きっと内藤は、夏の始まりとともに訪れ、短い命を燃えるように輝かせる あの蝉たちと同じだったのだ。

残業を片付け、僕は帰路を急いだ。 家に着き、ソファーに腰掛けてギネスを飲む。 秋だと言うのに、今日は馬鹿に暑い。 刹那、遠くで蝉の鳴き声が聞こえた。 季節外れの蝉が一匹―― とんとん とんとん 同じくして、玄関のドアが叩かれた。 ギネスを机に置くと、僕は玄関に向かいドアを開けた。

内藤がいた。 痩せこけて、ボロボロになって、それでも力無く笑っている内藤が、そこに。

「内藤さん、あんたなんで…」 驚きと戸惑いに言葉を失う。 なぜ彼はここに。 なぜ彼はこんなにボロボロに。 なぜ彼は。 なぜ彼は。 なぜ。 なぜ。 様々な疑問符が頭に過ぎる。 全ては言葉にならない。 「…だお( ^ω^)」 「え?」 「ありがとうだお。長い旅路、僕の体を労ってくれたのは君だけだったお( ^ω^)」 「いや、そんな…」 「はいだお( ^ω^)」 内藤はそっと左手を差し出した。 そこには、あの日僕があげたのと同じミネラルウォーターがあった。

「こんなもの、別にどうでもよかったのに…」 「カリが返せて良かったお( ^ω^)」 そう言うと、内藤はバッタリと突っ伏した。 「内藤さん……?内藤さん?!」 僕は慌てて彼の細長い腕を取る。 脈が、ない。

混乱する頭を必死で冷静に立て直しながら、僕は彼を仰向けにした。 みぞおちの少し上、心臓のあたりを両手で必死に押す。 体は、脆く折れそうな程に痩せ細っている。 一回、二回、と等間隔に押しつける。 しかし反応はない。 僕は内藤の顎を少し持ち上げると、口から口へ空気を流し込んだ。 必死に蘇生を試みる。 頼む。お願いだ。生き返ってくれ。 すると、内藤は薄く瞼を上げた。 「内藤さん?!しっかりして内藤さん!!」 内藤は口を少し開けて、何かを僕に伝えようとしている。 「ダメだ、喋っちゃダメだ内藤さん」 僕は救急車を呼ぼうと立ち上がった。 その腕を内藤は掴んで、引き止めた。 「内藤さん…!!」 「初キッスだったお……」 内藤はそう言ってニッコリとほほ笑むと、また瞼を閉じた。 それは彼の最後の言葉になった。

彼は蝉のようだ、と僕は言った。 でも彼は、次の夏も、その次の夏も、帰ってこない。きっと。 彼は蝉ではなかった。 ただ、内藤だった。

方々手を尽くしたが、内藤の縁者は見つからなかった。 それどころか、彼には戸籍すらなかった。 僕は大山の山奥に赴いて、彼を火葬し荼毘に付した。 内藤の骨は少し苦かった。

家に帰った僕は、IEを開いた。 ネットを開いても、かつてあれだけ話題を呼んだ内藤の話題は 塵も見付けることができない。 そういうものなのかもしれない。 それでいいのかもしれない。 諦めて僕は煙草に火を点けると、ふと、傍らの手帳が目に留まった。

『走るお。 走るお。 走るお。 僕は走るお。』

涙が、溢れた。

僕はキーボードに向かった。 ディスプレイが涙に霞む。 シャツの袖で目を擦り、僕はカタカタとキーを叩いた。

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「( ^ω^)初めましてだお。僕は内藤ホライゾンだお!!」

おしまい。 </blockquote>

コメント

[[名無し>UserPage/名無し]] &size(80%){2006-02-05 09:57:19}: お前は最高だ…